ハイコンセプト資本主義・志(こころざし)資本主義

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参考書籍

(1)堺屋太一著作集 第15巻 知価革命/日本とは何か(堺屋太一著、東京書籍、2018)
(2)ハイ・コンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代(ダニエル・ピンク著、三笠書房、2006)

新型コロナウイルスの影響によって、いびつに変形発展する世界

 よく経済発展の資本としてたいせつな4要素として、ヒトモノカネ情報があげられます。

 現在人類が直面している状況において、これらの4要素の中ではヒトカネ情報のソフト面にかかわる部分でのアップデートが目まぐるしく行われています。

 ヒトについては、体と心の変化(ワクチンによる免疫獲得とコロナによる価値観・世界観の変化)が、カネは非接触型の決済方式の広がりとデジタルマネーへの資本の流入が、情報は日々のコロナウイルスの変異株の出現などによる情報更新があげられます。

 逆にハード面を象徴する要素である、モノはリアルな接触の可能性が高く、著しく停滞しています。順境な経済発展でも、この4要素が各々きれいに伸びていくことはないと思いますが、このようなモノの発展が遅れてソフト面が急発展する、いびつなバランスのまま経済活動が引き伸ばされているのが現状ではないでしょうか。

今回の内容

 モノが変われない・買われない時代では、意味や解釈を変えることが有効ではないかスケールよりもクオリティにシフトするのではないかというのは、これまでにご紹介してきました。

 今回はハイ・コンセプトが時代をつくっていく、個人の志(こころざし)が時代をつくっていくのではないか、というお話です。

時代によって変わる人間の美意識と倫理観

 参考書籍(1)において著者の堺屋太一氏は、「人間はまことに利口な動物であり、いつの時代、どこの地域でも「豊富なものを沢山使うのは格好が良い」と考える美意識をもち、「不足なものは節約するのが正しいことだ」と信じる倫理観をもつ」(p26)と述べています。

 これまでの時代には、それぞれどのような美意識と倫理観が信じられていたのでしょうか。

 日本の例を見てみましょう。

 ①戦前(2つの世界大戦(1918年~1938年)より前)

  戦前、中東で大油田が発見される前は、世界的に資源と食糧が不足しており、資源が乏しく国土が狭い日本も当然資源不足でした。

 その代わり、人手は多くあったため、人を沢山雇ったり面倒を見たりするライフスタイルが尊敬されていました。

  美意識…人手が豊富で賃金も安かったため、名門・良家など人手を沢山使うのが一番格好が良かった。

  倫理観…慢性的なモノ(物財)不足状態で「モノを大切にすること」「モノを節約すること」が何よりも正しかった。

 ②戦後(第二次世界大戦以後)

  大油田がいくつも発見され、石油の価格が下がり、自動車や航空機が庶民の乗り物となりました。

 その後、開発された土地が都市と工業用地になり、より多くの農産物と資源が大量生産されました。

 そして、石油からはじまった「モノ余りの時代」=「工業社会」に突入します。それに伴って美意識や倫理観も変化します。

  美意識…安くたくさん資源・農産物があり、モノをふんだんにつかうことが格好が良い。

  倫理観…大量生産品ための手段を機械化し、人手を節約するのが正しかった。

工業社会の次の社会を予測する

 堺屋太一氏は本書で次の時代を予測するうえで、「これからの世の中を考えるには、まず「これから豊富になるものは何か」を探し出せば、大きなヒントが得られるはずだ」(p51)と述べています。

 これからヒトが溢れた戦前の時代、モノが溢れた工業社会を経て、つぎに豊富になるものはなんでしょうか。

 堺屋氏は、広い意味での「知恵」であると答えています。

 そして、「これからの社会では「知恵」を沢山使うライフスタイルが尊敬され、「知恵の値打ち」を多く含んだ商品がよく売れるようになるだろう」と記しています。

知恵の時代とはつまり何か

 さらに堺屋氏は、「「知恵」というものは、過去の知識と経験の蓄積によって増え、教育と情報流通の発達によって普及し、人々の感覚と思弁によって創造される」(p51)と記しています。

 私はこの文章を読んで、「知恵とは、人の感覚(感性)と思弁(フレームワーク)の集合体」=「ブランド」を連想してしまいましたが、もっと大きく考えると、

知恵の時代とは、「資本主義が変容してコンセプト、あるいは突出した個人の強固な思考=志(こころざし) を資本とする時代」ではないかと思いました。

ハイ・コンセプターの時代

 そういった意味では、ダニエル・ピンク氏の「ハイ・コンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代」(参考書籍(2))は、2006年に書かれた書籍ですが、現代を象徴するような内容になっています。

 本書のなかで、ピンク氏は「ハイ・コンセプトとは、芸術的・感情的な美を創造する能力、パターンやチャンスを見出す能力、相手を満足させる話ができる能力、見たところ関連性のないアイディアを組み合わせて斬新な新しいものを生み出す能力などである」(p103)と述べています。

 創造したり、他人と共感できる人=ハイ・コンセプターがこれからの時代をつくると言えそうです。

成功のカギは6つの感性(センス)にある

 この書籍には、ハイコンセプトの時代において、6つのセンスが重要とあります。

①芸術的感性:「機能」だけでなく「デザイン」

 デザインは、生活に意味を与え、先例のない新しいやりかたで我々をとりまく環境をかたち作ることであり、「実用性」と「有意性」の組み合わせである。

②ストーリー性:「議論」よりは「物語」

 コンピュータ時代において、要約すること、文脈に当てはめること、感情面に訴えることは、生活の意味を追求するための手段として、マネされるのが難しい能力としてますます貴重になってきます。

③調和させる能力:「個別」より「全体の調和(シンフォニー)」

 調和とは、「統合する力」であり、「無関係に思える分野に関連性を見出す力」、「誰も考えなかったような要素の組み合わせから新たなものを創造する力」をさします。

④共感する力:「論理」ではなく「共感」

 共感とは、相手の状況に自分を置き換えて考えられる能力、その人の気持ちを直感的に感じ取れる能力です。

⑤遊び、楽しむ力:「まじめ」だけでなく「遊び心」

 遊びは、「ゲーム」・「ユーモア」・「喜び」に代表されように、幸福を追求するうえで重要な部分を占めます。私、個人的も遊びは人間の根源であると考えています。

⑥生きる意味を見出す力:「モノ」よりも「生きがい」

 人生においてもビジネスにおいても「生きがい」を見出した人や組織は、最高の活力源を手に入れたことになります。

見えない富を資本にする

 ご紹介した書籍は両方とも10年以上前に書かれた本ですが、( 参考書籍(1)は1985年、(2)は2006年)表現こそ異なりますが、いずれも現代の社会潮流を言い当てているようで した。(10年くらい寝かせた、当時の社会予測本で、当たっていると思われるものを参考にする手法はやはり有効な手法です)

 希望を持ちにくい時流ですが、知恵や感性、さらに志といった目には見えない精神性を宿した人がつくる、これからの時代に希望をもっていきたいと思います。

 今回は見えない富を資本とする時代がやってきそうだ、という内容でした。

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