参考書籍
「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?(安西洋之著、晶文社、2020)
直感と論理をつなぐ思考法(佐宗邦威著、ダイヤモンド社、2019)
ニュータイプの時代(山口周著、ダイヤモンド社、2019)
いま最も熱いビジネス界の三賢人とも言える安西洋之氏、佐宗邦威氏、山口周氏。この三氏の書籍を読んでいくと何やらほぼ同じ景色を見ているのではないかというのが今回の内容です。
これからは「役に立つ」より「意味がある」を目指せ
まずは山口周氏の「ニュータイプの時代」から。
役に立つ人より「意味がある人」がこれからは生き残る【山口周×尾原和啓対談2】
の記事にある「自動車業界が提供する価値の市場」という2軸の図の通り、日本の自動車メーカー(トヨタ、日産)は「役に立つけど、意味がない」領域で戦ってきたと山口氏は言います。
この領域は、役に立つ=利便性が高く、意味がない=価格は安いという領域。今後この領域を論理的に追及していくとAIの台頭により淘汰される可能性が高い領域でもあり、勝者がひとりで残りは敗者みたいな状態になるようです。
したがって、そんな危機的状況を回避するためにも日本企業は「意味のある」市場を目指せと言います。
「意味のある」領域は、付加価値が付きやすく、価格も高くなりやすい領域です。ここで言う「意味がある」とは、人の感性に訴えかける情報・色・形・ストーリーなどといった、他のメーカーがコピーできない性質のことです。
思考方法には4種類ある
つづいて佐宗邦威氏の「直感と論理をつなぐ思考法」へ。
【あなたはどれ?】「4つの思考タイプ」で仕事・人生が大きく変わる
という記事の図にもあるように人々の思考タイプには4種類存在するそうです。
4種類のタイプとは、①カイゼン思考、②戦略思考、③デザイン思考、④ビジョン思考のことです。こちらも2軸のマトリックス図になっています。
山口氏も佐宗氏も2軸マトリックス図を用いているので、
ひょっとして2つの図を混ぜることができるのでは?という仮説が浮かびました。
2つの2軸マトリックス図を混ぜてみた
山口氏と佐宗氏の2軸マトリックス図は同じことを指摘しているのではないか?ということで、2つの図を組み合わせてみたのが下の図になります。
山口氏の自動車業界のメーカーの例が、佐宗氏の4つの思考タイプにうまく分類されました。
今後日本のメーカーであるトヨタ、日産は「意味のある」領域を目指す必要があるとのことで、③デザイン思考か④ビジョン思考を目指す必要があります。
また、日本の企業全体に言えることですが、①カイゼン思考が得意過ぎて今後さらに論理的に進むと、②戦略思考に突き進んでしまいそうです。この②の領域ではAIとも戦うことになりますので、最も競争が激しい(1人の勝者とほぼ敗者の状態)が生まれてしまうハズです。特に中小企業はマズイと思います。
そのような壊滅的な状況にならないようにまずは③デザイン思考の領域を目指すのが良いのではないでしょうか。
中小企業がデザインの領域を進むには
デザイン思考のプロセスの詳細は、佐宗氏の書籍を参考にしていただくとして、ここからは安西洋之氏の「「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?」に触れていきます。
なぜなら日本にも多数存在する中小企業の活路を見出すヒントがありそうだからです。
「メイド・イン・イタリー」の3つの特長
安西氏が考える「メイド・イン・イタリー」のビジネスモデルの特長は3つだそうです。
1.地方の中小企業による自律分散型のビジネスモデルである
2.中長期型の強いビジネスモデルである
3.テクノロジー主導ではなくヒューマンセンス優位のビジネスモデルである
ということです。
3つの特長を語るうえで大切な2つのキーワード「意味のイノベーション」「アルティジャーノ」とは
この上記3つの特長を持つビジネスモデルを語るには2つのキーワードが欠かせません。
それが、「意味のイノベーション」と「アルティジャーノ」です。
「意味のイノベーション」についてはこちらのエントリーをご覧ください。
「アルティジャーノ」については、安西氏の書籍では
「物理的な材料に直接手で触り、モノをつくる人」(56ページ)
と範囲を定義して話を展開していきます。
製造規模でいうと職人による少量生産と機械装置による大量生産のあいだ、人間の感性(ヒューマンセンス)も必要になる小~中規模生産にあたる範囲だと思います。
この2つのキーワードが商品の魅力を「狭く深く」しているそうです。
大企業の商品設計は「広く安く」が前提
そもそも一般的な大企業がつくる商品は、多くの人が好むように分析調査されて世に出ます。
いわゆる従来のマーケティング手法です。言うなれば最大公約数の大きさがカギを握る戦略です。先ほどの図でいう①カイゼン思考の領域です。
ここでのポイントは大企業がつくる商品は「量産型で安い」ことです。大企業は、大規模な機械設備を使って自動化し、なるべく人間の手を入れずにつくることを目標にしています。ここには機械という大きな資本が必要になります。
機械で延々と同じものをつくれるため、個別の「好み」より「消費の数」が優先されます。
そこに消費の規模が求められる、つまり従来のマーケティングがマッチして機能するワケです。
大企業の「広く安く」に対抗する、中小企業の「狭く深く」
一方の中小企業は、大企業の戦略は機械設備といった資本力も低いので、「広く安く」する戦略は向いていません。それでも大企業に負けないインパクトを出す方法があります。それが商品を「深く狭く」する戦略です。
先ほどの2軸マトリックス図で表すと下のようになると思います。
商品設計の深さを水で例えると、「広く安く」の戦略は「水たまり」程度の深さに対し、「狭く深く」の戦略は「沼」のような深さとも言えるでしょうか。
ちなみに、この図に価格の要素が入るので実際はこんな感じになるハズです。
「狭く深く」を実現する「意味のイノベーション」と「アルティジャーノ」
「狭く深く」には「意味のイノベーション」と「アルティジャーノ」がキーワードと言いましたが、より具体的にいうと「深く」が「意味のイノベーション」、「狭く」が「アルティジャーノ」に依存するようです。
「意味のイノベーション」は個人の内発的なフレームワーク、個人の解釈からスタートするので、その商品が刺さる人を限定させます。つまり「深く」なります。
「アルティジャーノ」は手仕事に近いので、意味や想い、ストーリーが込めやすく商品的に「狭く」なるからです。
話が長くなりましたが、
①今後は商品に「意味を込めること」が大切で、
②その戦略としてデザインを取り入れること、
③特に「狭く深く」売るが重要戦略になること
を3人の賢人が言っているのではないか、という話でした。