世界の流れはグロース(成長)からクオリティ(質)へ

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参考書籍

(1)超日本製品論 SUPER JAPAN PRODUCT これから来るスーパージャパン時代の基礎データ&マーケティング入門 (木戸良彦著、日経BP社、2017)

(2)2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日 (福田稔著、東洋経済新報社、2019)

(3)MUJI式 世界で愛されるマーケティング (増田明子著、日経BP社、2016)

コロナウイルスは時を加速させた

 新型コロナウイルスの影響は、接触型のビジネスモデルが多かった時代から非接触型のオンラインでのビジネスモデルへの移行を加速させました。

 つまり、時間が加速して、いきなり10年後の未来が突然現れたのに近い状況です。しかし、ここで大事なことはまったく新しい現実に変わるわけではなく、小さな変化としてすでに起きていたことが新たな主流になっている点です。

 例えば、Zoomなどのオンラインでの会話も技術としてはコロナ前からあったので、やはり「すでに起こった未来のカケラ」が主流になっています。

この先に待つ時代

 私たちがこの状況を克服できる日がきたときには、あたらしい価値観が主流になっていると思います。

 それが「世界の流れは成長路線(グロース)から質(クオリティ)に変わる」というものです。 そしてその価値観には日本の要素が触媒としてはたらく可能性が高いと思います。

 つまり日本の考え方やビジネスモデルが、アメリカを中心とした国々のフレームワークになるかもしれません。

今回の内容

 大まかな流れとして、(1)で日本製品に期待されているイメージをつかみ、(2)で受け入れられやすい要素を確認して、(3)で成功事例をみる感じです。

 まずは(1)の書籍に含まれる博報堂のオリジナルデータベース「Global HABIT」の調査データから抽出された外国人の「日本製品のイメージ」を紹介します。このデータはコロナ前のデータですが、アンケート調査としての母集団が1万3000人以上と数も多いところが良い点です。

 前述のとおりコロナが技術的には時を加速させただけと仮定するならデータとしての価値は薄れていないと思います。

 つぎの(2)の書籍はアパレル業界がテーマですが、日本が世界で受け入れられる、5つの「日本的な要素」が書かれています。こちらの本も、コロナ前に2030年を想定して書かれていますが、コロナによってすでに10年分の時間が加速したと見立てると、まさに今について書かれているように感じられます。

 最後の(3)の書籍はジャパンブランドとして海外の人びとに愛されている「MUJI(無印良品)」の戦略についてです。

海外の人びとが抱く日本製品のイメージ、そしてデータに隠れている「未来のカケラ」

 (1)の書籍の調査対象は、香港、中国、台湾、シンガポール、インドネシア、ベトナム、タイ、韓国、マレーシア、フィリピン、ロシア、インドの15歳~54歳の男女、1万3427人(2016年)です。 

 この書籍の調査によれば、海外の人びとが抱く日本製品のイメージの評価は「高品質な」がトップでした。次いで「定評のある」が二番目でした。つまり、購入金額に対して含まれる商品の価値が一定基準を超えている確率が高いということだと思います。

 さらに重要な点として感じたのは、上記の1番目、2番目に評価が高かった項目ではなく、それ以降の順位の評価として「カッコイイ・センスがいい」、「時代を切り拓いていく感じ」に日本人よりも外国人の関心度が高い、と筆者が注目している点です。

 この部分が本書の提言したい「超日本製品( SUPER JAPAN PRODUCT)」が要素が隠れているデータの片りんなんだと思います。

超日本製品=本質美を閉じ込めた「何か」

 本書では『日本人の「その製品自体が存在する本質的価値を突き詰める探求心」と「その製品カテゴリーや市場の本質的課題に挑む挑戦心」が宿った珠玉の日本製品を、SUPER JAPAN PRODUCTと命名し、それ以外の日本製品と線を引いています。』(116ページ)とあり、そこには「必然的な美しさ」が宿っており、「本質美」が含まれているとされます。

 よって、今後物質的な要素で日本がふたたび注目される存在になるには、自然の理を閉じ込めたような本質的な造形美を持ち合わせている「何か」(本書でいう超日本製品)を生み出すことが必須のようです。

 本書では例えば、スマホの台頭による腕時計の存在価値の低下などが挙げらていますが、腕時計に本質美を纏わせることで、時間を見るためではなく「時計を見るために時計を身につける」というような、一種の魔力のような仕掛けが必要だと感じました。

キーワード=日本人の精神性が宿る「反復の美学」

 大切なキーワードとして挙げられていたのが、日本の四季がもたらした「反復の美学」です。日本人が大事にしている価値観として「うつろい」がありますが、四季による「繰り返し」もまた日本の重要な価値です。

 他国にも四季はあるようなのですが、日本ではこの四季を連想するような「反復の美学」が型を生み出します。武道や茶道に限らず、ものづくりにおいて型を忠実に繰り返すことで、精神性も研ぎ澄まされていくその感性もまた日本人が得意としている感覚なのかもしれません。

世界に受け入れられやすい5つのキーワード

 (2)の書籍では日本のブランドの世界観として、世界に受け入れられやすい5つのキーワードを成功事例とともに紹介しています。

 それが、「ストリート」、「テクノロジー」、「ジャパンブルー」、「アルチザン」、「ジャパニーズ・ミニマル」の5つです。

 このキーワードはあくまでもアパレルの世界のキーワードになりますが、それでも「テクノロジー」、「ジャパニーズ・ミニマル」、「アルチザン」は全体的なものづくりのキーワードに当てはまると思います。

個人的に気になったのは「アルチザン」と「ジャパニーズ・ミニマル」です。

 アルチザンは「職人」を意味するフランス語で、職人のこだわりを想起させる製品の魅力については上記に述べてきました。

 ジャパニーズ・ミニマルは「わびさび」のような様式美を指し、禅(ZEN)のコンセプトは海外でわかりやすいキーワードになっているようです。

 本書では、その成功事例として無印良品のコンセプトが挙げられています。無印良品のコンセプトとはどういったものでしょうか、最後の書籍で見てみましょう。

無印良品(MUJI)のコンセプト

 (3)の書籍に書かれている、無印良品という主要なコンセプトを紹介します。筆者がMUJIはブランドではなくコンセプトであると捉えているのが要諦と感じました。以下簡単ですが、面白いと思った項目と感想です。

①時を超える

 「人が本能的に「心地よい」と感じる部分を商品に求める」は、時代に関係なく生き残る名著のような普遍性をつくりだすことを重視していると思いました。

②シンプルにする

 「ターゲットを絞らずに最大公約数を探す」、「個性の一歩手前でとめる」については、マス商品としての魅力を最大限に発揮できるコンセプトで商売をするのが重要さを述べていると思います。

③調和する 

 「用の美を大事にする」、「日本人の自然観から出発する」点は禅の思想につながってくる部分です。

④反対のことをする

 「アンチテーゼとしてのブランド」という立ち位置はブランドが今後ますます溢れてくる状況においては、非常に強い立ち位置だと思われます。ノームコアや反逆のブランディングがキーワードに浮かび上がりました。

⑤コンセプトから想像する

 「MUJIというコンセプト、具体的には「自然と。」、「無名で。」、「シンプルに。」、「地球大。」を根幹として多岐にわたる商品群をMUJIというブランド概念でつないでいく」のは、大きなブランドに見られるブランド統合とは逆説的な気がしました。


 無印良品のコンセプトについては、日本特有のコンセプトだと思うので、また掘り下げていきたいと思います。

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