参考書籍
(1)食品産業の未来 ネスレの挑戦(ピーター・ブラベックーレッツマット 著、日本経済新聞出版、2021)
食品メーカーがつくる食品は、すべて加工食品であるわけですが、その加工食品メーカーの筆頭がネスレです。そのネスレの名誉会長が記したのが本書、「食品産業の未来 ネスレの挑戦」です。
今回は今後の食品産業(特に大手メーカー)にとって未来を照らす教科書の一つになるのでは?という内容でしたので紹介したいと思います。
人類の願いとそれを叶える方法
まずこの本の最初のメッセージとして言えることは、「健康で長生きしたいという人類の願いを叶えるには、食生活を一から見直すことが重要」ということです。
そして、それを叶える方法として「年齢や生活状況、遺伝的あるいはエピジェネティックな変異(※1)による体質などの特性に合った健康的な食生活をすること」が挙げられています。
※1エピジェネティックな変異…元の遺伝子の並び方は変わることなく遺伝子のスイッチの強弱が変わること。遺伝子に画びょうのようなピンが刺さるようにして(メチル化が)起こる。生活習慣でも変わるそうです。ここでは生まれつき(=遺伝的)に次いで大切な要素であるため、生活習慣としてエピジェネティックな変異が挙げられていると思います。(長注釈スミマセン)
皆が健康的な食生活を送るために必要な3つのこと
人類が健康的な食生活をするためには以下の3つが必要といいます。
①食料生産に新しい科学的知識を取り入れること
②健康長寿に適した食生活の実践
③天然資源を効率的に活用したフードシステムの実現
持続可能な方法で原料を調達し、それらを工場で新たな栄養学を吹き込んだ加工食品として消費者に提供すること。それが食品産業界と消費者が共栄する未来なのです。
私が読んで感じた3つのこと
①人類の歴史は飢餓との闘いの歴史だった(飢餓→飽食→最適分配へ)
②これから数十年で食品業界で健康を切り口としたイノベーションの波が起こるだろうという著者の予測
③科学的知見をもとにした個別化(パーソナライズ)された「栄養」が発展する
①については食品加工の目的は、まず最初に「食料の保存」であったことがわかります。現在のような冷蔵庫が家庭にあるわけもなく、加工食品の原点的思想は日持ちする食品をつくりだすことでした。現在は、そこから安全、おいしさ、健康が議論になっています。
②については、食品産業(メーカー)が今後大きく変わる可能性を強い意志を持って語っているなと感じました。加工食品を今はイメージできない、しかし今後健康に欠かせない食べ物へ、さらに進化させようとしている感覚になりました。
③は、原題「Nutrition for a Better Life(より良い人生のための栄養)」とあるように、消費者にはまず栄養を届けることが使命で、その栄養は人々で異なった個別の栄養なんだ、ということに繋がっているように感じました。
食品産業の未来
栄養と遺伝子学が掛け合わさった領域の研究が進み、その成果に裏打ちされた食品を食品メーカーが提供する未来がもう少しで訪れるのかもしれません。